アトツギベンチャーサミットで考える、アトツギの「らしさ」について
先週末は(一社)ベンチャー型事業承継によるカンファレンス「アトツギベンチャーサミット2025」に参加するため京都は父親の母校でもある同志社大学に行ってきました。当日は3つのセッションがあり、それぞれ感じたことをまとめてみます。
オープニングセッション:商いの原点
京都で文明開化と共にブリキの茶筒づくりを始めた開化堂の6代目、八木さんのお話でした。八木さん自身が職人であり商売人であり、そのどちらにおいても自分の感性を磨いて、八木さんの言葉では「こころと向き合って」いる。stay small、その感性が働く関係性を大事にして、会社は大きくしようとは思わない。ベンチャー型事業承継では「ランチェスター型アトツギ」と呼ばれるタイプです。
私は事業承継を進めるには規模を大きくしないと難しいと考えていましたが、当社が現在コンパクトな会社であることは、思えば建築士(職人)であり中小企業診断士(商売人)である父親の経営スタイルがランチェスター型だったのかもしれません。この戦略をとるには他の人には真似できない技術や感性が必要です。また、その卓越した力を引き継いでいくには、小さくても世代や継承のバランスを考えた組織である必要があります。
実はこうした生き残り方も夢の一つとしてはあり、建築家による難易度の高い設計に対する施工をやり切れるエキスパート部門を常に組織していたいという思いもあります。その夢を実現するためにも、いまはしっかり成長の基盤をつくることを改めてやっていきたいです。
テーマ別セッション:伝統と革新の交差点
岐阜の紡績業である長谷虎紡績の長谷さん、聖護院八ツ橋総本店の鈴鹿さん、福井の文具店であるホリタの堀田さんという、40代アトツギ社長によるトークセッションでした。同じ40代アトツギ社長として共感するところの多い話でした。
会社や社員さんに育てられてきて現在の自分があり、だから跡を継いで貢献、恩返ししていきたいというアトツギによくあるモチベーションの話でしたが、しかしそこから長谷さんはバイオ素材を使った紡績、鈴鹿さんは八ツ橋が身近だった自分ならではの視点、堀田さんは文具のテーマパークという自分の代ならではを見つけて、そこに突き進んでいる。この「会社らしさ」ではなく「当代らしさ」にどうやって気付けるのか、そして気付くだけではなくそこに賭けてみようと行動できるのか、ここがアトツギベンチャーへと進み出せる分岐点であり、そのきっかけをもっと聞きたかったなと思いました。
特に印象に残ったキーワードは「僕らは世代の狭間で言語化する世代」ということでした。私自身も、自分はこうありたいからこうしていきたいということを、これまでは先代に遠慮して話してきませんでしたが、今はこうして言葉にしなければ何も伝わらないと思っています。
ファイナルセッション:アトツギベンチャーが描く未来
コクヨの黒田さん、新政酒造の佐藤さん、マクアケの中山さんによるトークセッションでした。なんでコクヨなんだろうと思っていたのですが、コクヨは上場企業でありながら創業家が社長を承継されているんですね。
このセッションで印象的だったのは、アトツギなんて自分が得意かもわからない事業の社長になるんだから、会社にとって不完全で当たり前。そこに自分の得意や個性があってこそ新たな推進力になる、というメッセージでした。ここでも黒田さんから長期ビジョンを描き切ることが大事、そうすることで力になりたいと役員の応募も増えたという、言語化の重要性という話がありました。
アトツギベンチャーサミットを通じて考えたのは、「会社らしさ」は代々引き継がれながらも、そこに「自分らしさ」をどう織り込んでいくか。そこがいい塩梅になるところを見つけられた人に私は共感するし、そうなりたいと思いました。
そのためには、この会社がどうあるべきなのか、自分はどうしていきたいのか、それを言語化して内外に伝えていくことで、自分の考えも洗練され、また共感も得られて、会社の軸足ができてくるのではないかと思います。