代表の経営日誌

「リビングラボを担うローカルスタートアップ」という可能性について

「リビングラボを担うローカルスタートアップ」という可能性について

広島でソーシャルイノベーションに取り組むコミュニティSIGN(Social Innovators Gathering for Next Hiroshima)のワークショップに参加しました。SIGNは県立叡啓大学の早田教授が発起人として、ソーシャルイノベーションに関心の高い人達が集まって、広島で色々な取り組みを進めていこうというコミュニティです。メンバーは県内の経営者や役員、イントレプレナー、スタートアップ、社会起業家、NPO、行政職員など多岐に亘ります。

僕が代表となって今年から行っているアトツギコミュニティ「HATCH」も、このコミュニティを通じて知ったメンバーの皆さんの活動に触発されて始めた経緯があります。

 

さて、今回はゲストトークとして廿日市市の松本市長、NTTグループ・地域創生Coデザイン研究所の木村さん、大牟田未来共創センター(ポニポニ)の原口代表理事の3人から話をしてもらいました。パブリック・ビジネス・ソーシャルスタートアップそれぞれの立場からのトークを通じて「リビングラボ」という枠組みを進めていきたいという早田先生の狙いのもと、この3人に集まっていただいたようでした。

 

リビングラボと中間組織の役割

リビングラボとは、実際の生活環境で、住民と一緒に新しいサービスや製品を開発する枠組みです。従来であれば企業などがサービスや製品のモデルを一旦完成させてから、実証実験として住民たちに提供していきます。しかしリビングラボにおいて住民は「テストする人」ではなく「共同開発者」として参加します。実際には住民がそこまでの参画意識を持つことは難しいと思うのですが、そこでポニポニの原口さんは、自分たちを「見立てができる中間組織」だと表現していました。住民の生の声を企業がフィードバックとしてほしいかたちに翻訳して返すのが原口さんの役割です。この「中間組織」という役割が、リビングラボを機能させる鍵だと感じました。
例えば住民は「バスが不便」という生活実感で語り、行政は「地域交通政策」という言語で、企業は「実証フィールド」という言語で考えています。住民は行政や企業と直接対話する言語を持っていません。中間組織は、住民の生の声を企業が求める調査結果に翻訳し、行政が予算を使える形に翻訳する。リビングラボという枠組みの中で住民と試行錯誤しながら、その結果を行政・企業にフィードバックしていく。この二方向の翻訳により、中間組織は住民のニーズと、行政の予算、企業の技術をつなぐ存在として機能します。

 

ローカルスタートアップが中間組織を担える可能性

この中間組織の役割をローカルスタートアップが担える余地があるのではないかと気づきました。私たちが社会課題解決に向けて新しい取り組みをしようとしても、行政から直接受託するには信用度や実績が不足しています。現実には、行政の事業はシンクタンクやコンサルタントが受託します。しかし彼らも市民や現場の声を上手に拾えないまま報告書を作ってしまいがちです。そこで、行政の事業を受託したシンクタンクに対して、彼らが求めている現場の声を提供するというポジションが中間組織=ローカルスタートアップです。行政→シンクタンク→ローカルスタートアップ→住民という構造で、シンクタンクはリアルな成果物を得られ、ローカルスタートアップは継続的な収益源を確保できる。そうすることで、中間組織としてのローカルスタートアップが持続可能な事業体になれるのだと思いました。

 

アトツギコミュニティ「HATCH」はリビングラボの実例だった

振り返れば、私が取り組んでいるアトツギコミュニティ「HATCH」は、既にこの構造に近いかたちでした。月例の勉強会に対して、行政から委託を受けた企業から支援をしたいと申し出があり、その委託事業の予算を使って勉強会を開催することができるようになりました。これはリビングラボの枠組みそのものです。このコミュニティは既に中間組織の役割を果たしていたのです。

 

今回のワークショップで、このアトツギコミュニティをリビングラボと捉えるならば、今後はローカルスタートアップとして事業体にできるのではないかという道筋が見えました。そうした方がコミュニティ自体の社会的信用も高まり、継続的に予算を獲得する可能性も高まります。行政の予算とシンクタンクの需要、そして現場の実感をつなぐ翻訳者として、リビングラボという枠組みを使いこなしていく。それが、地域での社会課題を解決するビジネスの解法のひとつになるかもしれません。

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